文化を作るのには時間がかかる。

これはもう当たり前っていうと当たり前の話なんですが、個別に見ていくと、案外それを分かってない案件によく当たる。

テレビのスポーツ中継あたりは、それが分かりやすい。

例えば、つい先日、日本人初のインディ500優勝者になった佐藤琢磨選手が参戦してるインディカーレース。
昨今ブームになり人気がじわじわ上昇してきているサイクルロードレース。
今や、人気のコンテンツとなって地上波ゴールデンの中継が当たり前になったフィギュアスケート。

中継時間が長い…これが重要


これらの競技に共通するのは中継時間が非常に長いコト。

サイクルロードレースは6時間以上に及ぶこともあるし、インディカーレースもスタート前のセレモニーから表彰やインタビューまで含めると5時間以上。
フィギュアスケートも、全グループ中継すると4時間以上、それを男女シングル、ペア、アイスダンスでそれぞれショートとフリーということで、全て中継すると、週の半分が中継で埋まります。

これだけ長い時間中継を行うと、必ず競技が展開せず退屈になる時がきます。
試合内容を伝えるだけだと、視聴者が飽きてくる時間帯が必ず訪れる。

こうした空いた時間を、どう伝えるかが実は非常に大事。

最初から最後まで、手に汗握る興奮の中継…というと、テレビ局的には理想なのかもしれないけど、実際の競技はそうではない。
静かな展開の中で、選手それぞれが次の展開を考えて、静かに駆け引きを行う時間は必ずある。
そこに言及できる中継スタッフが、それを的確に伝えることができれば、競技としての奥行きがぐっと増す。

さらに、この空き時間は、競技とは直接関わらないが、競技を取り巻く文化的背景を伝える絶好の時間とも言える。
誰が勝つのか…という直接の結果だけに止まらず、選手がこの場に立つまでの紆余曲折の経歴であったり、地道な取材によって得た人となり、ファンの熱狂や支持といった、この競技を取り巻く「人」の魅力を伝えるには、こうした時間は絶対に必要。

一番盛り上がるシーンだけをダイジェストで伝えても、それはその競技の魅力を伝えてることにはならないことを、中継スタッフが認識し、伝える努力を続けていれば、それは必ず視聴者に伝わる。

それをやってきた競技は、じわじわ人気を上げてきてると感じてる。

CS放送に多い良い中継スタッフ


実際、昨今の自転車…特にロードバイクブームの発端は、間違いなく「弱虫ペダル」のヒットに起因してるわけだが、それを生み出すコンテンツ制作サイドや、自転車業界に関わる人にとって、JSPORTSで長年にわたって中継されてきたサイクルロードレースの影響は、決して小さくない。

その文化的素地があればこその、今のロードバイクブームの現出がある。

同様のことはGAORAのインディカーレース中継にも言えるし、佐藤琢磨選手のインディ500優勝が、今後のインディカー人気を大きく飛躍させるきっかけになるかもしれない。
文化的素地は、しっかり伝えられてきてるから。

この点、有料放送であり、最初から最後まで、全てを見たいという視聴者を抱えるCS放送、JSPORTSやGAORAという放送局はこうした役割に向いているし、有能なスタッフを抱えてると言える。

視聴率しか見てない中継もある


その一方で、視聴率のみを見て、文化を伝えようとしていないスポーツ中継も多々存在する。
中でも、フィギュアスケート中継は一番危惧してる。

男女フリー、それも最終グループしか中継せず、そこに、これでもかというぐらい日本人選手のビデオを押し込んで「ガンバレニッポン」に終始する。
日本人選手を応援すること自体は全く問題ないけれど、それだけに終始するのは、そのスポーツの文化的背景を薄れさせ、深みを見失い、ただ結果だけを期待して伝える、薄っぺらな中継になりかねない。

実際、以前のフィギュアスケート、グランプリシリーズの中継はJSPORTSで行われており、そこでは男女シングル、ペア、アイスダンスのそれぞれショート、フリーの全選手が中継され、丁寧な放送が行われていた。

その後、フィギュアスケートが人気種目になり、地上波で中継されるようになってから、日本人選手の活躍ばかり写すようになり非常に味気なく感じてる。
結果だけを煽って編集してしまうことで、競技の魅力ではなくて、中継者の書いたシナリオが透けて見えるようになったのは大きなマイナスポイントだ。

地上波ということで視聴率を無視した番組を放送できないコトは理解するが、だからと言ってスポーツ中継の本懐から大きく外れた番組を制作されることが許されるわけではない。

スポーツによって、テレビ中継に対しての向き・不向きは存在する(例えばサッカー等は試合がコンパクトにまとまっており中継しやすい)。
そのあたりを見極めて、伝えられないスポーツに対しては、きっちりと見切りをつけないと、スポーツ文化を消費するだけで使い捨てにしかねない。

それはテレビ局にとっても、スポーツ業界にとっても不幸なことでしかない。

文化まで伝えてこそスポーツ中継


「競技」だけを伝えてるのなら、それは娯楽だ。

フィクションのドラマや映画と変わりない。

「文化」までも伝える、「文化」を育てることまで意識してこそ、本当の意味でのスポーツ中継。

その意味でも、JSPORTSやGAORAと言ったスポーツ専門チャンネルに今後も期待しつつ、地上波放送においても、結果だけにとらわれずに、もっとスポーツ本来の魅力を伝えられるスタッフが育つことを期待していきたい。
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