「伝統の製法を守り続けてきました」

なんて聞くと、ずーっと昔から同じ方法でものづくりをしてきたんだ…なんて思うかもしれませんが、それは理論的に考えておかしいです。
あり得ないと言っていい。

長い間、同じクオリティの製品を作り続けるためには、誰よりも変化を進めてきた結果と言っていい。

長きにわたって時代を超えるためには、躊躇なく変わることしか方法がないのだから。

変わる環境


製法を一定に保つことは、理論的に考えて不可能です。
それが長期に渡れば渡るほど。

なぜなら、そこには環境の変化が必ず生じるから。

材料にしろ。
道具にしろ。
市場のニーズにしろ。

材料の変化


天然素材を材料に使っている以上、必ず気候変動の影響を受けます。
今までと同じ材料が入手できなくなるコトは珍しくないです。

もちろん、同じ材料でも、状態のよいものから使っていけば、徐々に質の悪い材料しか残されなくなります。

そうした材料の変化に対応しなかれば、同じクオリティの製品を作り続けることはできません。

わかりやすい例としては、曲げわっぱの材料として有名な、天然秋田杉は伐採を禁止されました。
これからは植林した杉を使って生産しなければなりません。

もしかすると、今まで高品質を保ってきた工房では生産が滞り、新しい工法を編み出した工房が高い品質を実現するかもしれません。

環境は常に変化します


他にもあらゆる環境は、常に変化します。

道具ひとつとっても、今現在使われている道具は、長い年月の間に職人が工夫を重ね、金物屋と一緒になって変化をしてきた結果です。

材料の性質が変われば、この先また変化することもあるでしょう。

昔に比べれば、人々の生活も変わりましたし、そのニーズに合致しなければ消えていくしかありません。

かつてどんなに便利だったからといって、縄文時代の土器や石器を実生活に使ってる人はいません。

対応するべき市場のニーズをどう捉えるかは、生産者のセンス次第ですが、ある程度のスパンを見据えながら、製品自体を変えることなしには伝統工芸といえど続けていくことはできません。

変わったからこそ、続いてきた


何を変えずに、何を変えるか。

そこにセンスが活きてきます。

何でもかんでも変えればいいってわけじゃない。

便利で安いからといって、木彫に漆塗りの器を、プラスチックに塗装して作ってしまっては、もはや別物です。

今までの、自分たちが作ってきた価値を見極め。

何に価値があるかを真剣に悩み。

その価値を誰に提供したいか。

そこに真摯に取り組んできた伝統工芸だけが、今まで生き残ってきたんであり、その姿勢を貫ける伝統工芸だけが、これからも続いていく。

変わらないために、変わる。

矛盾した問いに立ち向かう覚悟があればこそ。
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